6:シャコガイの飼育



 では、シャコガイを水槽で飼育するにはどのようにすればいいのでしょうか。
それをここでは書いておきます。
おっと、あたりまえですが、シャコガイを食べる生物が入っている水槽では飼育できませんよ。 (「シャコガイをつつく生物」が入っているのもあまり良くありません。私の水槽には入っていますが(爆))

必要な設備

 前提として、濾過システムができあがっていて、安定して維持されている水槽が必要です。 これはシャコガイとは関係ないことなので、ここでは省略します。

 まず必要なのは水換えの時に必要な人工海水ですが、個人的にはどんな物を使っても問題ないと思います。
今まで3種類の人工海水を使いましたが、どれを使ってもそこまでハッキリとした差があるわけでもない気がします。 (目で見て差があるとわかるのは、栄養塩の含有率の差からくる藻の発生量くらいでした。)
きっと値段が高い人工海水の方が良い傾向にあるんだと思いますが、 現在自分の知る限り1番安い人工海水を使っていますが、全然平気です。
というわけで、食塩水じゃなければ大丈夫でしょう。
 溶かす水も、水道水で問題無いでしょう。
一時期純水を使っていた時期もありましたが、その時は藻が発生しにくかったくらいで、他の生物への影響の違いはよくわかりませんでした。
ただ、どちらがシャコガイにとって良いのかはわかりません。
「水道水で大丈夫だった」ことは確かです。

 次に照明です。
こっちは適当では良くないと思います。
シャコガイは浅瀬に生息するのでそれなりの明るさが必要になります。
例えば、蛍光灯を1〜2本点灯した水槽と浅瀬の海を比較してみるとどうでしょう。
うん、争うまでもなく蛍光灯がヘボすぎます。
水槽を見ていて明るく感じることがありますが、これは太陽光が部屋に入らない夜に受ける印象です。
昼間に蛍光灯の点いた水槽を見てみてください。
直射日光が当たっていなくても水槽に電気が点いているのかどうかさえ微妙な状況ですよ。 それほど太陽光が偉大なのです。

 というわけで、照明はできるだけ強いものが良いでしょう。
具体的には、メタルハライドランプなどがあります。
もしくは、蛍光灯をアホみたいに沢山点灯するなどです。 そして私は後者です。
60p規格水槽に対して20w蛍光管が3本、12wの蛍光球が2つで、合計84w。
気分によっては蛍光球を3つ点灯しているので、その時は100w近い電力が照明に注ぎ込まれていることになります。(爆)
まぁ、一般的なメタルハライドランプの150wに比べればかわいいもんです。


(もう、わけのわからないことになっています。)

 すくなくともこの設備では問題なくシャコガイが生きています。
だからといって少ない照明で飼育ができないと断言しているわけではありません。
シャコガイの光条件に対する適応能力が成貝になって残っているのかどうかは知りませんが、私は試したことがないのでなんとも言えないです。
しかし、先ほども書きましたが、光の強度が落ちると綺麗な構造色が弱まったことは確かですので、綺麗な色のままで維持したいなら光は強い方がいいでしょう。 (これも、色が綺麗なのが良い状態だと言っているわけではないですよ。)

 それから、カルシウムリアクターというものがあります。
これは重炭酸イオンとカルシウムイオンを同時に供給する器具で、 供給されるイオンは共にシャコガイの貝殻形成になくてはならないものです。
なので、設置すれば貝殻の形成は活発になるでしょう。
尚、重炭酸イオン、カルシウムイオンは普通のサンゴ砂を敷いて飼育していれば、ある程度までは自然に供給されます。
造礁サンゴも2つのイオンが成長に必要なんですが、それが大量に入っていない限りは、無くても大丈夫でしょう。
私の水槽には無いです。でも、あった方が良いと思います。

 微量元素等の添加剤?そんなのは知りません。
なんかそういうのって、闇の商売と化している気がします。
こう、怪しい情報を流して儲けようという陰謀が・・・
基本的に、効果が目に見えにくい商品は信用しないほうが良いです。

 科学的根拠と実績をもって添加が有効であると示されていたら、考えてもいいんじゃないでしょうか。


シャコガイの選び方

 シャコガイはアクアショップで買うことになると思いますが、その時に注意すべき点があります。 最も重要なのは、店で売られているシャコガイの状態は普通ではない、ということです。 つまり、砂の上にシャコガイを並べている状態です。
これを見て、「シャコガイはこういう風に飼育するものなのか。」と勘違いしてしまうことが多く、 実際に私もそう思っていた時期がありました。

 アクアショップの人はシャコガイの飼育を間違っているのか?と思うかもしれませんが、そうしなくてはならない理由があります。
もし岩の上に置いていれば、シャコガイが足糸で定着してしまうからです。
注文を受けるたびに岩を取り出して足糸を切って・・・なんてするのは大変でしょう。
シャコガイを長期間水槽に入れておくわけではないので、砂の上で多少我慢してもらっているわけです。
ちなみに、ちょっと気が利いた店だと、細かくなった枝サンゴの骨格を敷き詰めた上にシャコガイを並べ、注文を受けたときに簡単に取り出せるようにしています。
あと、シャコガイが石などに定着した状態のまま売るには、パッキングが破れないようにする必要があるので、特別な事情の時以外はあまりないです。

 なんか話がずれてますね。

 希ではありますが、前側の外套膜が2つに裂けている個体が売られていることがあります。 多少外套膜が欠けているくらいなら再生するのですが、裂けている個体が元通りに再生するかは怪しいです。
また、外套膜の開き具合がやけに中途半端だったり、貝が開いた状態なのに外套膜が内側に後退しているのは危険です。
シャコガイは自分にあたる光の量が変化すると、反射的に殻を少し閉じて外套膜を引っ込めます。 手か何かで照明を遮りシャコガイの上に影を作って、無反応なシャコガイがいたとしたら、その個体はかなり弱っていると思われます。
店で綺麗な色をしている個体を見つけても、これらの項目に当てはまったら買うのはやめておいた方が良いです。

 もし外套膜の一部の色が薄くなっていたら、大抵は何らかの理由でその部分へ光が当たっていなかった場合です。
こういう個体は、後で光をしっかりあてれば色の薄さが改善するので、買っても問題無いと思います。


水槽へ入れる際の注意

 シャコガイを買ってきたら、まずは水槽へ入れるべきでない生物が殻などに付着していないかどうかを確かめます。
この時に特に注意すべきなのは、1〜5o程の長さの白い巻貝です。


(下にある目盛りは1oです。色が白くないのは、ずっと変な場所に放置していたからです。)

 この貝は、シャコガイに寄生して外套膜などから体液を吸ってしまいます。
なので、見つけたらピンセット等で徹底的に除去しましょう。
殻のヒレの間や、足糸開口部に隠れていることが多いです。
また、粘膜質な物質に包まれた卵が付着していることもあるので、念のためブラシで擦っておいた方が良いでしょう。
ただし、あまり擦りすぎると外套膜や体の一部が傷ついて、そこから何かに感染したり弱ったりする可能性があるので注意。

 もし、見逃して水槽内へ侵入してしまうと、もう大変です。
こいつらは増殖スピードが速く、気付いたら大量発生しています。
水槽にシャコガイが複数入っていれば、飛び火するように寄生される個体が増えてしまいます。 さらに面倒なことに、この貝は夜行性で昼間はシャコガイの定着面付近や殻の隙間に隠れているので、非常に発見しにくいです。
一度見つけて完全に除去したと思っても、何日か経つと周囲に隠れていたものが卵を産み、増殖して元通りになってしまいます。
ついでに色が白いので、砂の上に落としたりすると、ものすごい勢いで見失います。
そしてそのまま放置すると、集団リンチの如く体液を吸われ、徐々に弱って死に至る場合もあります。
いやー、恐ろしい。
 家のシャコガイは、全て寄生された経験があります。
撲滅までには10ヶ月くらいかかり、今でも警戒中です。
前にトガリシラナミが死んでしまったんですが、この個体はかなり寄生されていたので、それが原因だったのかもしれません。

 あ、その寄生貝ですが、種がよくわかりません。
Tathrella属に属する貝の一種Tathrella sp.)か、 Turbonilla属(イトカケギリガイ属)に属するシャコガイヤドリイトカケギリTurbonilla cummingi )のどちらかだと思うんですが、 資料が少なく、貝自体も小さいのではっきりとした同定はできません。


 次に、シャコガイが入っている海水から、自分の水槽の海水へ慣らす必要があります。 海水の温度、濃度、pHなどを少しずつ合わせるために、シャコガイが入っている袋を水槽に浮かべ、水槽の水を袋に少しずつ入れましょう。 この作業のことを水合わせと言います。 とにかく、買ってきて水槽へドボンはよろしくないです。


 水合わせが終わったら、シャコガイを置く場所を考えましょう。
据わりが良く、光がよくあたる場所が良いです。
蛍光灯での飼育の時は、岩を組み上げた頂上など、できるだけ光源に近づけます。

 シャコガイは、何かに定着していないという状況はかなり異常事態なので、とにかくどこかに定着しようとします。
水槽に入れて次の日になれば、足糸が1〜2本は作られているでしょう。
そうすれば、岩の上から落っこちることは少ないと思います。
最初の足糸が作られるまでは何かで支えておいた方が良いかもしれません。
ただ、押さえつけるのはダメです。
シャコガイが足糸を形成するときには、前背縁の足糸開口と定着面の間に足を伸ばす隙間が必要なので。

 それからシャコガイは毎日のように足糸を形成し、太い束になると動かなくなります。
ここまでくれば安心です。 ちょっとのことでは調子を崩しません。

 しかし、自然界と違って、完全に動かなくなるのは飼育者としてはちょっと面倒です。
レイアウトの岩組へ一度定着してしまうと、シャコガイを取り出すのはものすごく大変になります。 また、新たな生物を入れるためのスペースを捻出しようと思ったりして、シャコガイを動かす必要がでてきたら、 定着している岩ごと動かすのもアレなので、シャコガイが苦労して作った足糸を切らなくてはなりません。
 そこで私がオススメなのは、座布団方式です。(いや、勝手に命名しました。)
これは、シャコガイに対してちょうど良い感じの大きさで、比較的平らな石を用意し、その上に定着してもらう方法です。
石はサンゴの骨格などの炭酸カルシウムを主成分とするものが良いです。
これだと移動も簡単ですし、やろうと思えば砂の上に置いてあるように見せることもできます。(光源から遠ざかるのであまり良くないですが。)


(もうチェスの駒のように動かせるのです。座布団方式では右の写真のように小さい石へ定着させます。)


 最後に、シャコガイの近くに刺胞毒の強い生物を配置しないことです。
私はミドリイソギンチャクの隣にヒメシャコガイを置いていたところ、 ヒメシャコガイが移動してしまい、次の日にはイソギンチャクの触手にガッシリと捕らえられた状態で発見され、 最終的に死んでしまいました。 こういう事故死は注意すれば避けられるので、シャコガイの置き場所はよく考えましょう。

参考:アクア忘備録 2008年8月8日


維持管理について

 基本的に、水槽のシステムが維持できていれば問題ありませんが、注意点はいくつかあります。

 まず、寄生貝が付いていないかどうかのチェックは頻繁にした方が良いです。
大量発生してからでは遅いので、若い芽のうちに摘み取りましょう。


 餌に関しては、水槽には多少のプランクトンとデトリタスが浮遊しているので、特にあげなくても大丈夫だと思われます。
ただ、強力なプロテインスキマーを設置している場合、水中のプランクトンなどは除去されてしまうので、何かしら餌をあげた方が良いかもしれません。
私は下のページを参考に、時々水に溶いたドライイーストを水槽へ入れています。
ちょうど餌をあげた方が良いウミイチゴも入っていたので。

秋田の内科医、スーリンさんのHP内の記事「餌としてのイースト菌」


 それから、シャコガイに起こる異常を見逃さないのも重要です。
外套膜をあまり広げていないのはかなり怪しいので、ちゃんとチェックしましょう。
寄生貝が付いていて外套膜を貝から避けようとしていたり、何かに感染して危険な状態なのかもしれません。
いずれにしろ、外套膜を広げない状態が長く続くとよろしくない事態に陥ります。
その1つが殻の発育異常です。
外套膜がしっかり広がらないことで、新たに形成される殻が成長すべき方向ではなく、殻の内側に成長してしまいます。



 これはヒレナシシャコガイですが、2回の発育異常があったので殻が2段階に内側へ落ち込んでいます。
最初の殻の段差(@)は、ヒレナシシャコガイを買って水槽に入れたときの環境の急激な変化が原因で形成されたと思われます。
ヒレナシシャコガイは石垣島から通販したもので、もともとは天然海水と太陽光の元でキープされていたのが、 空輸を経て急に水槽の環境へ移ったために、外套膜をあまり広げない状態が続いてしまったのでしょう。
2回目の段差(A)は、原因が不明です。
ただ、確かに外套膜を殻の縁までしか伸ばさない期間があったので、何かよろしくない状況だったのでしょう。(マルチカラーエンゼルにつつかれすぎた?)

 この発育異常は、その後しっかりと外套膜を広げるようになれば、まったく問題無いです。 シャコガイの殻に成長中の異常が残ってしまうので、直後の見栄えは若干悪くなりますが、 成長して大きくなれば目立たなくなるので、そこまで重大な問題ではないでしょう。 しかし、成長異常が甚だしい場合は危険かもしれないです。(殻の形がかなり変化してしまった、とか。)

 ちなみに、買ったときから写真の状態になるまでに過ぎた時間はたったの1年。
@のラインがシャコガイの腹縁だったところから、ここまで成長しました。
これを見るとヒレナシシャコガイの成長の速さがよくわかります。


 あとはしっかり光をあてて褐虫藻が増えてくれれば、シャコガイが利用して勝手に成長するでしょう。
何か異常が見つかってしまっても、原因が特定できない場合は(原因が特定できても)対処法があまりない場合が多いので、 最初から異常が起きないように心がけるのが大事です。


外套膜の色を良くするためには?

 これは一般に「色揚げ(いろあげ)」と呼ばれおり、構造色が増えたりして色が綺麗になることを指しているようです。 ここで重要なのは、
【色が綺麗な状態】=【シャコガイにとって最も良い状態】
であるかどうかはわからない、ということです。
【色が綺麗な状態】=【人間にとって最も良い状態】
とは言えるかもしれませんが。
「色揚げ」がシャコガイにとって良いことなのか悪いことなのか、私はわかりません。
仮に「構造色は褐虫藻の増殖速度を制御するための日除け説」に近い事が事実であった場合、 「色揚げ」はシャコガイに対する嫌がらせのようなものになってしまいます。
とにかく、これに関しては不明です。
なにか知っている人がいたら教えて下さい。

 しかし私もシャコガイは綺麗な方が良いので、今のところは綺麗な色を維持したいと思っています。 とりあえず現在わかっているのは、光の強度によって構造色が変化している可能性が高い、 ということなので、「シャコガイの特徴」に書いたとおり、なるべく強い光をあてることにしています。
ただ、「光が強すぎて逆に色が悪くなった」という話も見ます。
この辺りの意見は個人の色の好みに依存していると思うので、 シャコガイの「色揚げ」については自分で色々と条件を変えて確かめてみるのがいいでしょう。




 
−目次−
1:シャコガイの形態
  1-1:殻について
  1-2:体について
2:シャコガイのなかまたち
  2-1:ヒメシャコガイ
  2-2:シラナミガイ
  2-3:トガリシラナミ
  2-4:ヒレシャコガイ
  2-5:ヒレナシシャコガイ
  2-6:オオシャコガイ
  2-7:シャゴウガイ
  2-8:ミガキシャゴウガイ
3:シャコガイの生活環
4:シャコガイの特徴
  4-1:渦鞭毛藻との共生
  4-2:外套膜の色
5:シャコガイの養殖
6:シャコガイの飼育 (現在のページ)
  6-1:必要な設備
  6-2:シャコガイの選び方
  6-3:水槽へ入れる際の注意
  6-4:維持管理について
  6-5:外套膜の色を良くするためには?



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