4:シャコガイの特徴シャコガイについて特筆すべき点を挙げておきます。 ◎渦鞭毛藻との共生サンゴ礁を形成している造礁サンゴは体内に渦鞭毛藻を共生させており、 造礁サンゴの他にも、浅い海にすむ軟質サンゴ(ソフトコーラル)やイソギンチャクも渦鞭毛藻と共生の関係にある場合が多いです。このような関係を持っている渦鞭毛藻を総称して褐虫藻(かっちゅうそう)、または共生藻といいます。 そして褐虫藻はサンゴ礁に住むシャコガイの体内(外套膜)にも存在します。 前にも書きましたが、シャコガイと共生するのはSymbiodinium属の渦鞭毛藻の一種( Symbiodinium sp.)で、 複数種のSymbiodiniumと共生している場合もあります。 ちなみに、海洋中の渦鞭毛藻には動くための鞭毛がありますが、共生が成立して褐虫藻となると鞭毛が消失し、単純な球状の細胞となります。 逆に、褐虫藻が宿主から海洋へ抜け出すと、再び鞭毛ができるそうです。 シャコガイがどのようにしてSymbiodiniumと共生するかは「シャコガイの生活環」に書いてある通りです。 ベリジャー幼生の時に食べたSymbiodiniumの一部が消化管から抜け出し、外套膜へ到達して増殖を始めます。 このときSymbiodiniumがシャコガイにとって異物であるにも関わらず、 生体防御の壁をなんなくすり抜けることができる理由は、まだよくわかっていません。 Symbiodiniumは外套膜で増殖しますが、外套膜の細胞内で増殖しているわけではありません。 外套膜は層状の構造になっていて、Symbiodiniumは外套膜内の間隙で増殖しています。 渦鞭毛藻が細胞内共生している造礁サンゴとはちょっと違います。 まぁつまりは、Symbiodiniumはシャコガイに細胞外共生している、ということですね。 外套膜の大きさによって、存在できるSymbiodiniumの量には限度があり、個体数は一定の範囲内で保たれています。 これは他の渦鞭毛藻と共生している生物にも言えることで、褐虫藻が増えすぎると海洋に放出するなどして量を調節します。 ではシャコガイの場合はどうかというと、海洋に放出する以外にも対処法を持っています。 それは、「褐虫藻を食べる」です。 そもそもシャコガイは外套膜で増殖したSymbiodiniumを食べる、という生活を元々しているので、過剰にならなくても褐虫藻を食べています。 また、シャコガイは他の渦鞭毛藻と共生している生物と同様に、褐虫藻の同化産物(有機物)を受け取って利用することもしています。 この利用法に関する詳細はまだわかっていませんが、 シャコガイのリンパ液に含まれるレクチンというタンパク質が、Symbiodiniumの外殻の糖鎖に特異的に結合することから、関与が示唆されています。 尚、レクチンには生体防御としての働きもあり、Symbiodiniumが消化管を抜け出すときにも関わっている可能性もあります。 というわけで、Symbiodiniumとの共生がシャコガイに与えている利益はこうです。 「海水中の微小なプランクトンやデトリタスを食べることに加え、 自分の外套膜に住ませたSymbiodiniumも利用可能なため、 安定した多くの栄養摂取ができる。」 では逆にSymbiodiniumにはどのような利益があるでしょうか。 まず、安定した生活場所が確保できます。 海洋では植物プランクトンは太陽光が届く位置に常にいないと、光合成ができなくなり死んでしまいます。 光合成しすぎても、同化産物が増えすぎて重量が増えれば沈んでしまいますし、波にもまれた生活は非常に不安定です。 しかし、シャコガイの外套膜の中にいれば、太陽光の当たる場所にずっと居座れます。 というか、それを考慮してシャコガイがそういう場所にいるんですが。 それから、Symbiodiniumはシャコガイが呼吸によって出した二酸化炭素、そして排出物を諸々の反応の基質として利用可能です。 以上から、両者は共に共生によって一応利益を得ているので、相利共生と言えそうですが、 シャコガイがSymbiodiniumを食べていることを考慮するとなんとも微妙な感じです。 どちらかというと、シャコガイがSymbiodiniumを育て、利用している感じがしますね。 「シャコガイは自分の畑を持つ生物」と呼ばれるのはこのためでしょう。 ◎外套膜の色シャコガイの外套膜の色にはかなりのバリエーションがあります。色によって種が分類されそうな感じさえ受けるほどですが、シャコガイの色と種の間にはあまり関係がありません。 シラナミガイの説明のところでやけに青い個体を紹介しましたが、別にすべてのシラナミガイがあんなに青いわけではなく、 あくまでカラーバリエーションの1つです。 ![]() (こんなにカラフルな貝が他にいるでしょうか。) (この画像は問題アリです。仏の心で許して下さい。) この色はどういう物なのでしょうか。 まず、シャコガイ自身の色、すなわち、シャコガイの体が反射する可視光ですが、足を見ればわかります。 ほとんどの可視光を反射している白です。 次に共生している渦鞭毛藻による色です。 渦鞭毛藻は光合成色素としてクロロフィルa、クロロフィルc、β-カロテン、キサントフィルなどを持ち、 それらが混ざって黄褐色〜茶褐色をしています。 (外套膜の裏からは渦鞭毛藻の色が見えます。) しかし、これらの色の組み合わせだけではあのカラフルさは実現できません。 最後に構造色という色があります。 構造色とは、光が特定の微細な構造によって干渉し、 その光が眼に入ってくることで見える色で、角度によって色合いが変化したりします。 私は物理に疎いのでこのあたりの話はよくわかりませんが、身近な例としてはCDの記憶面の虹色があります。 また、生物の例を出すならば、ネオンテトラの青色、玉虫のメタリックな色、 そしてこのHPのトップ画像にもあるモルフォチョウの仲間も構造色によって色付いています。 (青いのがモルフォチョウ(レテノール・モルフォ Morpho rhetenor)です。) シャコガイの構造色は、外套膜に存在するタンパク質の微細構造によって形成されます。 このタンパク質自体にはあまり色は無いのですが、可視光があたると鮮やかな色が見えます。 「シャコガイのなかまたち」では、シャコガイを横から撮影したものと上から撮影したものを並べておきましたが、 これをみてもわかるように、構造色は光があたってきた方向へ反射するように見えるのです。 (写真では上から光があたっているので、上から撮影したときに構造色が最も良く写る。) では、構造色は何のために存在するのでしょうか。 まず考えられるのは、自分を捕食する相手に対しての警戒色です。 これは派手な色を示すことで、捕食を逃れようという戦略ですが、 構造色は特定の方向からしか見えないので、警戒色としては中途半端。 たぶん違うでしょう。 次に、周囲の環境に溶け込むための保護色がありますが、これはもっと違うでしょう。 逆に目立ちます。 同じような環境に異なった色のシャコガイが存在することを考えれば、個体差なのでしょうか。 しかし、これでは構造色の存在理由の答えになってませんね。 色々調べてみましたが、結局わかりませんでした。 なので、自分の勝手な推測を書いておきます。根拠はあまりありません。 「構造色は褐虫藻の増殖速度を制御するための日除け説」 シャコガイは渦鞭毛藻を外套膜に共生させるが、外套膜に存在できる渦鞭毛藻の量は限られている。 あまりにも太陽光が強すぎる場合、渦鞭毛藻が増えすぎて、 その対応によってシャコガイのエネルギー効率が下がる。 それを避けるため、渦鞭毛藻に届く光の量をある程度まで制限している。 もしくは、強すぎる太陽光によって渦鞭毛藻の成長が妨げられるほどである場合に、光を制限している。 この説が思い浮かんだ理由は、シャコガイを光が強い場所から弱い場所へ移動したら、 構造色が弱まって渦鞭毛藻の褐色が目立つようになったことです。 また、もともと綺麗な構造色をしていたシャコガイが海藻に埋もれて時間が過ぎるとほとんど褐色になり、 再び光があたるようになると構造色が元通りになった、なんて話も聞きます。 構造色が少なくなることは、渦鞭毛藻に光がよく届く状況に変化したことになります。 しかし、そういう状況になることができるにも関わらず、強い光の時に構造色を放つ理由はなんでしょうか。 やはり、光が強すぎるのでしょう。 さて、色々言いましたが、やっぱり根拠はありません。 この説が正しければ、自然界の浅瀬に住むシャコガイは、全てビカビカとした構造色をしていないといけないのですが、 そもそも大抵のシャコガイは構造色が弱く、茶褐色なのです。 う〜ん、わからん。 さらに、構造色がどのように遺伝するのかもよくわかりません。 というわけで、結局のところ、構造色の存在意義は謎ということでした。 −目次−
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