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シャコガイの形態

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 まず、シャコガイの部分部分の名称がわからないとどうしようもないので、それを始めに書いておきます。 殻と体に別けて画像にしてみました。



 シャコガイの2枚の殻は、靱帯(じんたい)によって繋がっています。 靱帯は「蝶番(ちょうつがい)」としての働きに加え、殻を開く方向へ力をかけています。 この働きはかなり重要で、それについては後述します。



 次にシャコガイの方向に関してですが、靱帯がある側が背側で、その部分の殻を背縁(はいえん)と呼びます。 その反対側は腹側で、その部分の殻が腹縁(ふくえん)です。 靱帯がある側が後ろで、その逆が前となり、それぞれの側の殻は後縁(こうえん)・前縁(ぜんえん)と呼ばれます。 ちなみに、前側の背縁を前背縁(ぜんはいえん)、後側の背縁を後背縁(こうはいえん)として分ける場合もあります。

 殻長(かくちょう)・殻高(かくこう)・殻幅(かくふく)は、殻の大きさを表す言葉です。
殻長は前縁から後縁までの長さ、殻高は腹縁から背縁までの長さ、殻幅は殻を2枚重ねたときの厚みの長さを表しています。 尚、シャコガイの大きさについて特に断りが無い場合は、普通殻長のことを言います。


(殻幅は、殻を押さえている2つの消しゴムの間の長さになります。)

 殻頂(かくちょう)は、殻の成長が始まった部分で、シャコガイでは背側にある殻の頂点です。 別に殻頂によって殻が繋がっているわけではありません。 殻長と読みが同じなので、少し注意が必要。

 普通の二枚貝は殻を閉じると体の部分が完全に殻によって密閉されますが、シャコガイは違います。 殻を閉じても前背縁に足糸開口(そくしかいこう)という穴が残り、体が露出します。 殻に隙間を作って無防備な状態で平気なのか?と思うかもしれませんが、 シャコガイは前背縁を下向きに岩などへ固着し、 足糸開口の部分は自然に閉ざされるので問題ありません。



 絞歯(こうし)は靱帯の近くにある突起なんですが、これによって2枚の殻がうまく噛み合います。 二枚貝は絞歯の形、数、付き方によって「目」のクラス(界-門-綱-目-・・・の目です。)を分類することもあり、その分類だとシャコガイは「異歯目」に属します。



 殻の外側にある波打った形の山の部分を放射肋(ほうしゃろく)と言います。 放射肋にはヒレ状の突起が形成され、このヒレによってシャコガイは岩などへ引っかかりやすくなり、 大海原に投げ出されるのを防いでいると考えられます。

 そしてなんと二枚貝には2枚の殻にちゃんと右と左があります。 靱帯を下向きにして、後縁を手前に見ると、右側が左殻(さかく)、左側が右殻(うかく)です。


(この写真は貝を後ろから見ていることになります。右の貝は比較のためのシジミです。)

 右と左があべこべなのは、大抵の二枚貝は腹縁から足を出し、そちらを下向きに生活しているのに対して、 シャコガイは背側の足糸開口から足を出し、腹縁を上に向ける逆立ちの状態で生活しているためです。 まぁ、シャコガイを前から見ると、見ている人間にとっての右が右殻になります。 シャコガイではないですが、 殻の片側を岩などに固着させる貝の仲間などでは右殻と左殻を分けることに意味があるんですが、 普通の二枚貝なら正直どうでもいいですね。


 以上が殻に関する説明です。
次は殻の中身である体について。


(右下の太く塗られた部分が靭帯です。)

 上の絵はかなりアバウトなので、各器官の大きさや配置はあてにしないでください。
(心臓の位置とか筋肉の位置とか腸の長さとか・・・・)
色は便宜的に塗っただけで、実際の色とは無関係です。
そして当たり前ですが、全ての器官が描かれているわけではありません。

 まず、シャコガイの中で最も目立っている部分である外套膜(がいとうまく)です。 外套膜は貝の種類によってその形や大きさなどが異なりますが、共通している役割として、殻の形成があります。 外套膜の一番外側の部分には殻を作るための分泌組織があり、最初に海水があたらないようにしてキチン質の殻を作ります。 次にキチン質の殻と外套膜で閉じた空間を作り、その内部へ重炭酸イオン、 カルシウムイオンを分泌し、最終的に炭酸カルシウムの殻ができます。 この面倒な段階を踏まないと、分泌した物質が流出してしまうのです。 この他に、殻を厚くするための成長がありますが、こちらは殻の内部で行われ、 分泌物が流出することはないので直接的に殻を作ります。
 シャコガイの場合、外套膜に特定の渦鞭毛藻を共生させて、 自分が成長するためのエネルギーを「栽培」しています。 そのため、シャコガイは太陽光がよくあたる浅瀬に生息し、日中は外套膜を大きく広げます。 この共生に関しては後で個別に取り上げます。

 閉殻筋(へいかくきん)は、二枚貝が殻を閉じるための筋肉で、通常あるのは前閉殻筋後閉殻筋の2つです。 ところが二枚貝には殻を開く筋肉が付いていないため、閉殻筋を収縮し一度殻を閉じたら、 閉殻筋が弛緩しても殻は閉じたままになってしまいます。 そうならないためのあるのが、先ほど書いた2枚の殻を開く方向へ力をかけている靭帯です。 靭帯と閉殻筋の2つが拮抗的に殻の開き具合を調節しているのです。 この話があれば、熱した貝が勝手に開く理由も自ずとわかるでしょう。
ちなみに、ホタテの貝柱は発達した後閉殻筋に相当し、前閉殻筋は退化しています。

 シャコガイのの主な働きは足糸の形成です。 足糸とはシャコガイが定着する際に岩などと自分をつなぐ糸状のタンパク質で、足糸腺から分泌される物質によって形成されます。 形成の順序としては、始めに足を動かして足糸を付着させる場所を探ります。 場所が決まると足を押しつけながら、足の根本にある足糸腺から分泌液を出します。 足の根本から先端までには溝があり、分泌液はその溝を満たしつつ先端まで達します。 分泌液が海水に触れると硬化して足糸の完成です。 尚、この状態では定着面とシャコガイの間に空間が残ってしまいますが、 足糸を引っ張る筋肉(牽引筋)を収縮させることで定着面と密着できます。
 実際に定着しているシャコガイは、何本もの足糸からなる太い束によって定着面と繋がっているので、相当な力がかからない限り取れません。 定着面から強引に引きはがすのはシャコガイによろしくないので(痛々しいし)、取るなら足糸を慎重に切りましょう。


(明るいときの撮影なので、足の出し方が遠慮気味です。)

 シャコガイが海水を取り込む部分を入水管(にゅうすいかん)、出て行く部分を出水管(しゅっすいかん)と言います。 これは、アサリなど砂地の二枚貝が砂の中から伸ばしている管と同じですが、シャコガイの場合、入水管というより入水口と言う方が自然な感じがしますね。 入水管は小さい突起でギザギザしていて、大きい物が入ってくるのを防いでいます。また、それぞれを開け閉めすることも可能です。 誤って大きな物が入水管から入ってきたときには、出水管を閉じながら殻を閉じ、入水管から水を吐き出します。 逆に、放精・放卵のときは入水管を閉じながら殻を閉じ、出水管から精子・卵を吐き出します。 また、シャコガイは入水管・出水管の両方を閉じながら殻を閉じることで、足糸開口の部分から水を吹き出すこともあります。

 入水管から入ってきた海水が始めに通るのが(えら)です。 ここで酸素を取り込んで二酸化炭素を放出する呼吸を行います。 鰓には繊毛があり、これを動かして水流を起こして次々に新鮮な海水を送り込んでいます。


(シラナミガイの入水管から見える鰓。)

 二枚貝の心臓は2心房1心室で、囲心腔(いしんこう)の内部にあります。 動脈と静脈が通じていますが、開放血管系なので動脈を通ってきた血液は毛細血管の末端から組織へ流出します。 組織を通った血液は静脈に入り心臓へと戻ります。 ちなみに血液の色は透明です。

 鰓を通過した海水は次に唇弁を通り、そこでプランクトンやデトリタス(微細な有機物の粒子)を濾し取られます。 唇弁にも鰓と同様に繊毛があり、濾し取ったものは根本にあるへと運ばれます。

 口から入った食べ物は食道を通り、を通ってを通過しながら養分が吸収され・・・と、 普通に(?)消化吸収が行われます。 腸を囲むように存在する中腸腺は、肝臓のような働きがあり、栄養分の貯蔵をしています。 ちなみに、貝類が海中の有毒物質や重金属を吸収し、その物質が中腸腺に蓄積されて起きるのが今話題の生物濃縮です。 最後に不消化排出物として糸状の糞(いや、「くそ」じゃなくて「ふん」)が肛門から排出され、出水管から出てきます。


(糞が見えにくかったので色を付けました。)

 シャコガイは雌雄同体なので、生殖腺では精子と卵の両方を形成します。 ある時期になると多数の成熟したシャコガイが同調的に放精、放卵を行い、次の世代が誕生します。 シャコガイは自分の精子と卵が受精しないように、最初に放精、続いて放卵を行いますが、 これは遺伝子の多様性を維持するための工夫です。 尚、「ある時期」は、潮の干満、水温、気圧など周囲の環境変化による刺激が引き金になって起こる、と言われています。

 シャコガイの腎臓に相当する器官が、腎管に分類されるボヤヌス器で、生殖腺の近くにあります。 心臓から心臓を取り囲む囲心腔へと血液が濾過され最初に原尿が形成されます。 その後原尿はボヤヌス器へ送られ栄養分を再吸収し、残った排出物が尿となります。 この際、浸透圧の調整も行われています。


 以上の器官などがシャコガイの生活を支えているわけです。




 −目次−
1:シャコガイの形態 (現在のページ)
  1-1:殻について
  1-2:体について
2:シャコガイのなかまたち
  2-1:ヒメシャコガイ
  2-2:シラナミガイ
  2-3:トガリシラナミ
  2-4:ヒレシャコガイ
  2-5:ヒレナシシャコガイ
  2-6:オオシャコガイ
  2-7:シャゴウガイ
  2-8:ミガキシャゴウガイ
3:シャコガイの生活環
4:シャコガイの特徴
  4-1:渦鞭毛藻との共生
  4-2:外套膜の色
5:シャコガイの養殖
6:シャコガイの飼育
  6-1:必要な設備
  6-2:シャコガイの選び方
  6-3:水槽へ入れる際の注意
  6-4:維持管理について
  6-5:外套膜の色を良くするためには?


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