2:シャコガイのなかまたち



 前のページから「シャコガイ」と言っていますが、実際に「シャコガイ」という名前の生物はいません。 「シャコガイ」とは、動物界軟体動物門二枚貝綱マルスダレガイ目シャコガイ科に属する生物の総称です。 では、具体的にどのような貝がいるのか紹介します。




ヒメシャコガイ Tridacna crocea



 ヒメジャコガイとも呼ばれています。どっちが正式なのかは知りません。
シャコガイの中では一番の小型種で、大きくなっても殻長は15p前後です。
穿孔性(せんこうせい)があり、自然界でヒメシャコガイは 岩やサンゴに埋没して外套膜だけ外に広げている状態で見つかります。
稚貝が岩に定着すると、大きくなるにつれて酸性物質を分泌し、岩を溶かしながら穿孔していきます。(珊瑚礁の岩なので、主成分は炭酸カルシウムです。)
サンゴの周辺に定着したり、定着後に周囲にサンゴが成長してきても、 酸性物質によってサンゴが避けるように成長するので問題ありません。
そんな感じで埋もれて生活しているので、店で売られているヒメシャコガイを見ると、殻のヒレが削れて無くなっていることが多いです。


(サンゴに穿孔しているヒメシャコガイ。)

 外套膜の縁には点状の模様があります。
それから、放射肋のヒレの大きさに若干の個体差があるようです。


シラナミガイ Tridacna maxima



 ヒメシャコガイより少し大きくなり、殻長は20p程です。
殻高がヒメシャコガイに比べ低いので、スマートな印象を受けるかもしれません。
ヒメシャコガイと比べると外套膜の厚さが若干薄く、縁にある点状の模様が密で盛り上がっています。 なんかヒメシャコガイとの比較ばかりですね・・・
 ココス産のシラナミガイは美しさに定評があります。(写真の個体はココス産)


トガリシラナミ Tridacna noae



 2007年まではシラナミガイとして分類されていましたが、その年、2種の間に明確な違いが見いだされたので新たな種として分類され直されました。
2種間の違いは以下の通りです。

@リーフ(礁)上に多く分布する。(シラナミはリーフ外)
 リーフ上とは、要するに船があまり通らないようなサンゴ礁の上の方です。

A放射肋の数が6〜7。(シラナミは4〜5)
 放射肋の数は、外套膜のヒダの数と等しいので、そちらでも比較可能です。
シラナミガイとトガリシラナミを上から見ると、トガリシラナミの方がヒダが多く密になっています。 ただし、若い個体の放射肋は成貝より少ないことがあるので、ちょっと注意。

B放射肋の腹縁末端が鋭くとがる。
 トガリシラナミの名前の由来でもありますが、若干わかりにくい違いです。

 シラナミガイ
 トガリシラナミ

 放射肋が多く、その隙間が少ないことで自然にとがることになるんでしょう。


(このとがり具合。)

C外套膜の縁のあたりから、白い縁を持つ模様がある。
 シラナミガイの場合は外套膜の縁にある点状の模様が基本になりますが、トガリシラナミでは外套膜に模様らしい模様(?)があります。
この模様から、海外では「Teardrop maxima」と呼ばれているようです。

 沖縄地方でのシラナミガイ、トガリシラナミの水揚げ量を比較すると、シラナミガイ9割に対し、トガリシラナミは1割しかとれないそうです。 この少なさは、トガリシラナミがリーフ上にいるため乱獲されやすく、個体数が減っているということが原因の一つであると考えられています。


ヒレシャコガイ Tridacna squamosa

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 ヒレジャコガイとも呼ばれています。どっちが正式なのかは(略
この種はその名の通り、殻に非常に大きなヒレをもっています。
最大で殻長が40pくらいになります。


ヒレナシシャコガイ Tridacna derasa



 「ヒレ」の次は「ヒレ無し」です。
と言っても、完全に無いわけではなく、稚貝の時には非常に小さいヒレがあります。



 このヒレはすぐに削れてしまい、その後の成長ではヒレを作らないので、結局ヒレ無しになるわけです。
成長スピードはシャコガイの中では最も早く、殻の縁にはいつも新たに形成された綺麗な白い殻が見えます。
足糸開口がかなり小さく、足も細いです。
殻長は60p程になるそうです。


オオシャコガイ Tridacna gigas

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 King Of シャコガイです。知名度も一番でしょう。
シャコガイの中では最も大きく、というか、貝の中でも最も大きいです。
殻長は1mは軽く超え、大きいものだと2mに達するなんてことも聞きます。


(いや、ここまででかくはない。)

 オオシャコガイは他のシャコガイと違い、大きくなると定着していた足糸を自ら切り、 海底にずしりと直接腰(?)を下ろします。 ちなみに、沖縄でみられる大抵のオオシャコガイは1m未満の小型な個体で、 本当に大きいオオシャコガイは、より低緯度に位置するパラオやマーシャル諸島などにいるそうです。

 この巨大貝に関して「人食い貝」「足が挟まれて潮が満ちて窒息死」などと、都市伝説的(いや、海伝説?)な話が多いですが、 ほとんどが空想であります。
オオシャコガイは他のシャコガイと同様に、微少なプランクトンや外套膜の褐虫藻を利用して生活しており、 2枚の殻をバクバクやって何か食べちゃう、なんてことはないです。
また、シャコガイは外套膜などに刺激があると、自己防衛のために閉殻筋を収縮して殻を閉じようとします。
ですが、このときシャコガイは一気に殻を全部閉じるなんでことはしません。
刺激があるごとに段階的に殻が閉じていきます。これは水槽で飼育されているシャコガイでも確認できます。
小型のシャコガイだと一気に殻を閉じることもあるんですが、それは外部刺激とは無関係に、自分から殻を閉めるときの特殊な場合です。
さらに、大型に成長したシャコガイは、2枚の殻の成長量に若干の差が生じ、噛み合わせがぴったりではないこともあります。
そして、巨大なオオシャコガイは外套膜も巨大で肉厚なので、殻を閉めようとしても自分の身が邪魔をして完全に閉じることはできません。メタボリック。
というわけなので、意図的に挟まれない限りは「足が挟まれて潮が満ちて窒息死」は無いでしょう。


シャゴウガイ Hippopus hippopus

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 シャゴウガイ属に属すので、シャコガイ属の貝とは雰囲気が違います。
特にシャゴウガイに特徴的なのは、腹縁の中心が少し盛り上がっているところです。
また、放射肋の数が多く8〜9本くらいで、それぞれの形と大きさがなんだかランダムな感じです。
さらに、殻長に対して殻幅が大きいので、貝を真上から見ると太めの印象を受けます。
殻の外側には褐色の模様があります。 シャゴウガイもオオシャコガイと同様に、小さいときには足糸で定着生活をしますが、 大きくなると砂地などで生活し、さらに貝殻の開け閉めで移動できるそうです。


ミガキシャゴウガイ Hippopus porcellanus

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 こちらもシャゴウガイ属。
シャゴウガイと比べると、腹縁の盛り上がりは少なく、シャコガイ属に属するシャコガイに見た目が近いです。 放射肋はシャゴウガイと同様に多いです。
殻の外側の色がシャゴウガイに比べ白に近く、凹凸も少ない感じなので「ミガキ」と頭に付いているのかもしれません。


 現在日本には以上の8種がシャコガイとして存在しています。
世界には他にもいるらしいですが、今回は省きます。




 −目次−
1:シャコガイの形態
  1-1:殻について
  1-2:体について
2:シャコガイのなかまたち (現在のページ)
  2-1:ヒメシャコガイ
  2-2:シラナミガイ
  2-3:トガリシラナミ
  2-4:ヒレシャコガイ
  2-5:ヒレナシシャコガイ
  2-6:オオシャコガイ
  2-7:シャゴウガイ
  2-8:ミガキシャゴウガイ
3:シャコガイの生活環
4:シャコガイの特徴
  4-1:渦鞭毛藻との共生
  4-2:外套膜の色
5:シャコガイの養殖
6:シャコガイの飼育
  6-1:必要な設備
  6-2:シャコガイの選び方
  6-3:水槽へ入れる際の注意
  6-4:維持管理について
  6-5:外套膜の色を良くするためには?



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